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キレイ好きが病を招く “香害”深刻化の背景とは?

あれもこれも抗菌・除菌グッズを多用する日本人の超潔癖志向。行き過ぎた潔癖は、免疫力低下など健康を害するリスクだけではない。

“無菌社会”の病理は、人間の体から発する「におい」にも向けられている。体臭が嫌悪の対象とされ、口臭や体臭を発していると思い込む自己臭症という神経症に悩む人もいる。

 消臭除菌スプレーは多くの家庭に置かれ、制汗スプレーや汗拭きシートなどは子どもの運動会や部活動でも使われるようになっている。身の回りには消臭剤や芳香剤のにおいがあふれんばかりに満ちているが、こうした化学物質が人体に悪影響を及ぼしている。

 特定非営利活動法人「日本消費者連盟」スタッフの杉浦陽子さんは、化学物質が引き起こす健康障害の問題などを追究している。

「加齢臭でも子どもにとっておじいちゃんとのいい思い出があると、いいにおいとして認知されるといわれています。それなのに、体臭は不快なものとして固定観念を植えつけられ、アロマ香などメーカーが作ったものがいい香りとして押しつけられています」

 洗濯で使う柔軟仕上げ剤は本来、洗濯物のゴワゴワをなくしたり静電気をなくしたりするための商品だった。ところが、いまでは香りをつけることが目的化してしまっているという。杉浦さんが続ける。

「10年ほど前から外国製の香りの強い芳香柔軟剤が人気となり、国内メーカーも追随して“香りブーム”になりました。私たちの暮らしの中には、さまざまな合成化学物質が充満し、化学物質過敏症(CS)に苦しむ人が増えています。なかでも、芳香柔軟剤や消臭剤などの香りで体調が悪化する“香害”が社会問題化しています」

 杉浦さんによると、CSと診断された人と、何らかの健康障害が出ている潜在的な人を合わせれば、日本の人口の7~10%に及ぶという。決して少数者の問題ではなく、将来、花粉症のように国民病になる恐れもある。

 井口ひとみさん(仮名)はCS患者だが、2年前に小学校6年生の長女も発症。給食着を着て、その柔軟剤のにおいで頭痛と吐き気を覚えたのがきっかけだった。井口さんが語る。「給食当番は持ち回りで、給食着は前の人が洗濯したものでした。以来、他の子が着ている衣類の合成洗剤や柔軟剤のにおいがダメになり、頭痛や突然の眠気に襲われるなどの症状が出るようになりました。精神的にもイライラして不安定になっています。娘は教室にはいられなくなりましたが、学校側の対応は、相談室で学習プリント1枚を与えるというものでした」

 香りの強い柔軟剤を使わないように、教育委員会に協力を求めたが、他の子の家庭が使うものを規制できないとの返事。逆に「いじめのきっかけになったらどうするのか?」と言われ、脅されたような気持ちになったという。CSや香害に遭った人の症状は、ぜんそくや皮膚炎などアレルギー症状、下痢、パニック障害などさまざまだ。前出の杉浦さんがこう語る。

「重症化すると、電車にも乗れず、学校や職場に行けなくなる人もいます。病院に行っても待合室は地獄のようだといいます。芳香剤や消臭剤、抗菌剤は本当に必要なのか。健康を害される消費環境を根本から見直す必要があります」

 超清潔で、いつもいい香りをさせていなければならない──。そんな価値観とは決別しなければ、健康障害の被害者にも加害者にもなりかねないのだ。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2019年4月5日号より抜粋

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